平安時代の“頂点”に立った男、藤原道長とは？
藤原道長（ふじわらのみちなが）とは、平安時代中期に摂政・関白として絶大な権力を握った藤原氏の代表的人物です。
彼の時代は、まさに「摂関政治」の最盛期。天皇の外戚（がいせき）として、3人の娘を立て続けに天皇の中宮とし、「三代の外祖父（がいそふ）」という前代未聞の地位に君臨しました。
彼が詠んだ次の和歌は、そんな彼の栄華と野望を象徴するものとして、後世に語り継がれています。
この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば
（『小右記』より）
藤原道長のルーツ｜名門・藤原氏の一門に生まれた男
藤原道長は、**藤原北家（ふじわら ほっけ）という名門の出身です。
藤原氏は、古代から続く名家であり、奈良時代に活躍した藤原不比等（ふひと）**を始祖とします。藤原氏は4つの流派（南家・北家・式家・京家）に分かれますが、その中でも北家が最も繁栄しました。
特に、北家の中でも「摂関家（せっかんけ）」と呼ばれる一族は、天皇に代わって政治を行う摂政・関白を独占し、日本の実質的な支配者となります。藤原道長はまさにその中心人物でした。
家系図でみる道長の出自
道長の系譜は以下のようになります：
- 高祖父：藤原良房（よしふさ）…人臣初の摂政に就任
- 曽祖父：藤原基経（もとつね）…初の関白に就任
- 祖父：藤原時平（ときひら）…菅原道真と対立（昌泰の変）
- 父：藤原兼家（かねいえ）…摂政・関白を歴任
- 道長（みちなが）…三代の天皇の外祖父となり、藤原政権の頂点を築く
つまり、道長は代々「天皇を支える家系」の中で育ち、摂関政治の総仕上げを行った人物といえます。
歌の意味｜「この世＝私の世」…それは誇張ではなかった？
この和歌を現代語に訳すと、次のようになります。
「この世は私のものだと思っている。満月のように、欠けるものなど何もないのだから。」
“わが世”とは、「自分の時代」、あるいは「自分が支配する世界」を意味しています。
「望月（もちづき）」とは十五夜の満月のこと。欠けることのない完全な月を、自分の権力の絶頂になぞらえているのです。
この歌は、1000年正月に道長が詠んだとされ、権力の頂点に立つ喜びと、揺るぎない自信があふれています。
まさに彼の人生そのものを象徴する一首であり、現代でも「権力者の傲慢さ」「絶頂期の象徴」として引用されることが多い名句です。
藤原道長はなぜそこまで力を持てたのか？
では、なぜ道長はこれほどの権力を得ることができたのでしょうか？
その背景には、藤原氏が代々用いてきた外戚（がいせき）戦略があります。
- 娘を天皇の妃に入れることで、天皇の外祖父となる
- 摂政・関白に就任し、天皇の名のもとに政治を動かす
- 政治の実権を藤原一族に集中させる
道長はその戦略を極限まで高めた人物で、娘3人を後一条・後朱雀・後冷泉の各天皇に嫁がせました。
さらに自らが摂政となり、実際の政治をコントロールしていったのです。
ただの独裁者ではない？文化への影響も
道長の時代は、平安文化（国風文化）が最盛期を迎えた時代でもあります。
宮廷文化が成熟し、『源氏物語』（紫式部）や『枕草子』（清少納言）といった日本文学の金字塔が誕生したのもこの時代です。
道長自身も仏教を篤く信仰し、世界遺産にもなっている**法成寺（ほうじょうじ）**を建立するなど、文化・宗教面にも大きな影響を残しました。
道長の晩年と、その後の平安政界
栄華を極めた道長でしたが、やがて健康を害して出家し、55歳でこの世を去りました。
その後は息子の**藤原頼通（よりみち）**が関白を継ぎ、道長の築いた政権はしばらく維持されます。
しかし、摂関家の支配体制は、やがて上皇による院政や、地方武士の台頭によって揺らぎ始め、次第に終焉を迎えていきます。
まとめ｜「この世をば」の歌が語るもの
藤原道長とは、天皇家の外戚として権力の頂点に上り詰めた平安貴族の象徴です。
そして彼の詠んだ「この世をば…」の歌は、単なる自慢や傲慢さを越えた、千年続く歴史の証言でもあります。
彼の栄華と、その背後にある藤原氏のしたたかな戦略、さらには平安文化の成熟など、すべてがこの一首に凝縮されています。
満月のように満ちきったその時代。
それは“藤原道長の世”であり、平安という時代の絶頂期でもありました。
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